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アーユルヴェーダ叢書

『モンゴル医薬学の世界』
   


監修者:伊田喜光昭和大学薬学部教授 根本幸夫昭和大学薬学部非常勤講師
木下優子日本大学医学部東洋医学講座医局長
内モンゴル呼倫貝爾モンゴル医学校助教授徳力格爾(デレゲル)著
執筆協力:烏仁賽漢(ウランサイハン)内モンゴル呼倫貝爾日報社蒙編部記者
編集協力:西島啓晃、大石雅子、鈴木信弘、川本寿則、木村喜美代 根本奈帆(以上総合漢方研究会医学堂)。鳥居塚和生(昭和大学薬学部助教授)

ISBN4-86103-032-3 C0014
四六判並製 初版/2005年11月
定価(3800円+税)
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■今、明かされる、モンゴル医薬学の精髄、
本邦初、モンゴル処方の基本100種の薬物を紹介■

  モンゴル医学の理論は根本理論は「甘露の精粋である八部門の秘密教説の医典」であるチベット医学の『ギュー・シ』に依拠しているが、モンゴル医学の中心を 成す五種療法では、灸、マッサージ、羊の臓器療法、接骨術などシャーマン・ボウの伝統的な療法が多く取り入れられている。
また、巻末に掲げた中医学とのモンゴル医薬学薬物対照表はその方剤を知る上で興味深いものであろう。
「本書はモンゴルの伝統的療法に宿された豊かな叡知を知る上でも非常におもしろい内容をもっている」(序文)。


【目次】

第1章 モンゴル医薬学の背景/遊牧の民モンゴル人の暮らし/モンゴル医薬と病気

第2章 モンゴル医薬学の歴史/モンゴル医薬学とシャーマニズム
モンゴル医薬学に影響を与えた医薬学 モンゴル医薬学の現状 

第3章 モンゴル医薬学の基礎理論/ヘイ、シャル、バダガン体液説/
人体の構成要素 五臓六腑と体液(ドーシャ) 病因・病理   

第4章 モンゴル医薬学の治療/五種療法/食物療法 薬物療法 看護    

第5章 モンゴルに多く見られる疾病  体液理論と発症のプロセス
予防医学としてのモンゴル医薬学 疾患の種類

第6章 モンゴル医薬学の診断/望診・問診 切診(脈診)尿診

第7章 モンゴル医学でよく用いられる生薬
1.ウルゲスト・シャル・モド(三顆針)、2.バラグナ(水柏枝) 3.アラシャン・アガル(山沈香)、4.ダラン・ツルー(瑞香狼毒)、5.チャチャルガン(沙棘) 6.ローリ(藜)、7.チョリゲル(沙蓬) 8.ググル(黒雲香)、9.フォルゲン・チヒ(酸模)、10.ゲシューナ(大黄)、11.フォルゲン・メゲル(珠芽蓼)、 12.バガ・アルタン・ツツギン・ウル(波稜瓜)、13.オルモセ(赤_子)、14.ヤマーン・ザング(_藜)、15.ウヌルツ・ノゴーニ・ウル(芫_ 子)、16.フシグツ・ウル(蛇床子)、17.ウムヘー・ダブルハイ(阿魏)、18.タルノ(狼毒)、19.ナブチルハグ・ウルツーズ(多葉棘豆)、 20.シヒル・ウブス(甘草)21.ウラーン・アガル(降香)、22.ソモン・モド(蘇木)、23.ホンチル(黄耆)、24.バレガ(木通)、25.ボン ア(草烏)、26.ボンアギン・ナブチ(草烏葉)27.ボンアギン・ツツグ(草烏花)、28.ボンアギン・ソヨー(草烏芽)、29.ツァガン・ボンア(査 干榜嗄)、30.アラグ・テモル・オリャング(黄花鉄線蓮)、31.アラタンホワ・ツツグ(金蓮花)32.バル・ツツグ(翠雀花)、33.ムンゲン・ディ グダ(梅花草)、34.アラタン・ブォール (金腰草)、35.シュールツ・ディグダ(傘梗虎耳草)、36.エルセン・ローバン(沙芥)、37.ハンビル(__子)、38.ヘンゲルグ・ウブス( _子)、39.アルラ(訶子)、40.ガルーン・タバグ(角茴香)、41.フホ・オドバル(緑絨蒿)、42.ウラーン・ウドバル(紅花緑絨蒿)、43.ハ ル・バルチルガナ(藁本)、44.ホルハイ・ツツグ(北紫菫)、45.テモル・ザンゴー(菱角)、46.ダラン・トブチ(点地梅)、47.ウラーン・ハブ ルシル・ツツグ(報春花)、48.バシャガ(巴沙嗄)、49.ハリン・ハル・オルホダイ(礫玄参)、50.ボル・バシャガ(療歯草)、51.ボル・ホニ ン・エベル・ツツグ(馬先蒿)、52.ツァガン・チュマズ(水苦_)、53.ボル・ホンレン(胡黄連)、54.ハル・アラタン・ハルブル(満山紅)、 55.ハル・テモル・ディグダ(扁蕾)、56.ツァガン・ジェルジェ(竜胆花)、57.ハル・ジェルジェ(秦_花)、58.ツァガン・テモル・ディグダ (当薬)、59.シーリ・ディグダ(花錨)、60.ソブルガン・ツツグ(烏奴竜胆)、61.トソン・トールマ(蒙古山蘿蔔)、62.ズルゲン・フジ(纈 草)、63.ホン・ホルス(泡嚢草)、64.チョニン・ハルマグ(枸杞子)、65.ホンゴルジュール(漏芦花)、66.タブツァント・アザルガン(蓮座 薊)、67.マヌ(土木香)、68.ハルタラガナ(草地風毛菊)、69.バガ・ホニン・ニュドン・ツツグ(阿爾泰紫_)、70.ハンダガイ・ヘル(腎葉_ 吾)、71.ウルゲスツ・フヘ(藍刺頭)、72.ガシューン・ノゴー(苣_菜)、73.アギ(小白蒿)、74.ムンヘ・ツツグ(水母雪蓮花)、75.ゴン バガブジェ(嗄布結)、76.ビリャング(香青蘭)、77.シャル・ホンチン(黄花黄_)、78.ハル・ジルクバ(荊芥)、79.ツルベルジ・ウブス(益 母草)、80.アクシルガ(藜芦)、81.ノグトル・ウブス(貝母)、82.ツァガン・ゴヨー(肉従蓉)、83.ハダン・バタハ(歯縁草)、84.ウラー ン・ゴヨー(鎖陽)、85.グォルバルジ・ウブス(三稜)、86.ウラーン・トラム(角蒿)、87.アムタテ・ゼゲス(杉葉藻)、88.ツェツェン・ウブ ス(瓦松)、89.フフォー・ウブス(問荊)、90.ゼールゲン(麻黄)、91.ハル・ガブル(黒氷片)、92.ハダン・ハイルマル(五霊脂)、93.ア ラグ・バンブ(斑_)、94.ウヌゲン・オゥースギ(狐狸肺)、95.ソブッド(珍珠)、96.シュル(珊瑚)97.エル・ジョンシ(寒水石)、98.ウ ムヘー・ダブス(紫_砂)、99.ショロイン・ジュガン(石灰華)、100.トゴーニ・フォー(百草霜)

モンゴル医薬学薬物対照表


  
 五種療法

 モンゴル医薬学における治療は食物療法、看護、薬物療法、五種療法の4つからなっている。これらの4つの治療法はそれぞれ独自性があり、病気に なってから治療するよりも、病気にならないための養生法、つまり食生活や日常生活の過ごし方に重点が置かれている。万一、軽い病気にかかった場合でも、す ぐには強力な薬物などを使用せず、できるだけ食物療法や養生法などで健康を回復するよう促している。

 看護においては、心理学的なものまで数多く入っていて、五種療法と薬物療法の組み立て方も巧みに構成されている。

 モンゴルでは各地域で医療環境が大きく異なっているために、当初から製剤法に研究を傾注していたこともあって、資料や臨床データが十分調査・整理されていなかった。生薬に関する調査・整理が行われたのもごく最近になってからである。

 五種療法と一言にいうが、これは慣例的な呼び名で、実際には6種も7種もの治療を含んでいる。一般的には灸、瀉血、バター経穴(ツボ)、浴法、罨法、羊の反芻胃内容物療法などを指す。

灸療法

 灸は寒性病によく用いられる五種療法の一種である。ゴビ、シベリアの寒冷地方に遊牧しているモンゴル人は寒性病(消化器系慢性疾患や神経痛など)にかかりやすいので、温める治療法の灸療法が発達した。

『黄帝内経素問』には「北方とは辺鄙な高原ゴビ地方で、寒性病にかかりやすい。それには灸が良く効く。それゆえ、灸は北方より由来する」という記述がある。

 フェルトにバターを塗って灸をすえる方法は、モンゴル医薬学の初期から見られ、長い歴史のある治療法である。このフェルトにバターなどを塗って温 める療法や、疼痛部位をそれで包んだりする治療法は、アルタイ言語系のトルコ、モンゴル、満州ツングース族の祖先たちにも用いられてきた。

 灸療法は、まず症状に応じて39個の灸の経穴(ツボ)の中から治療ツボを選び出す。そして、使いやすいようにタバコ型にした艾を燃やして、患部に灸を据えるのである。

 寒冷地帯の遊牧民たちは、変形性関節炎や神経痛などにかかることが多い。重症の場合は火傷するまで灸を据えることもあるが、通常は薄い生姜などをツボの上に敷いて、間接的に灸を据える。

 灸は薬物療法と同様で、適切に用いれば寒性病に効くばかりでなく、温性病にも活用できる。寒性の強い薬剤を用いたり、強力な瀉血や下剤を使用する場合に起こりやすい寒気を抑える効能があるからである。また、鍼を刺してその鍼に艾をつけて温める温灸鍼もある。

瀉血療法

 瀉血療法は温性病、特に血熱性疾病(発熱をともなう急性の炎症など)によく用いられる五種療法のひとつである。特定の血管のツボを特殊な器具を用 いて切開して、病変している血液を取り除く治療法で、治療を行う前には、煎じ薬・三子湯剤注(体質を保つ新鮮な血液と衰えて病気に汚染されている血液を分 ける薬剤)を何日間か飲ませるのが一般的である。

 瀉血を用いる主な疾患は、急性の炎症の発病期、損傷熱(感染による発熱)、伝染病あるいは流行性疾患、丹毒、熱性の黄水病(ブルセラ病、リウマチ)などのシャル病、血の影響が大きいシャル病や急性の炎症の初期などである。

 特定の血管のツボ(ごく普通に利用されているのは30何箇所ある)に特殊な器具を用いて瀉血するが、患者の病状や病態、出血のタイミングなどを推 し量りながら、刺したり、切開したりして病変した血液を排出させる。急性の場合はそのまま瀉血してもいいが、一般的には瀉血する数日前から三子湯剤などを 飲ませ、その後瀉血をする。

バター経穴(ツボ)療法

 関連するツボまたはその周辺、あるいは疼痛部位にバターを塗って、マッサージをする療法である。マッサージをしない場合もあるが、その場合でも薬 効はある。モンゴル医薬学のマッサージの際、必ずバターを塗って行う。塗る部位は、手掌、足底部、胸椎や腰椎のツボなどが知られている。また、外傷や骨折 などには軟膏を塗り、他の治療法と併用する場合が多い。

浴法

 温泉または冷泉を用いる治療法である。五種薬浴といって5種類の生薬を入れた薬浴を利用することもある。

1. 温泉

 モンゴル草原は広大で、交通手段が乏しいため、日本のように一般人が温泉を楽しむ機会は皆無と言ってよい。温泉に行くのは、病気になってはじめて やむを得ず行くのである。前述のように、モンゴル人がかかりやすい神経痛やリウマチなどの寒性病には、著効がある。通常1回の治療コースは2週間か3週間 である。3年間くらい継続すると、相当な効果があがる。

 頭痛が激しい患者は冷泉を頭部に注いで治療する。実際には、モンゴルでは温泉や冷泉に入って治すより、むしろ飲用として利用する場合が圧倒的に多い。

2. 薬浴(五種薬薬浴)

 主薬:刺柏葉(杜松の干した葉)、杜鵑葉注各0.75s、小白蒿2.25s、水柏枝、麻黄各1.5s。

 副薬:症状に基づいて服薬を追加することができる。

 製法:五種薬を水200rで沸騰させ、半量になったら、その溶液を他の容器にとる。さらに水200rを加えて沸騰させ、4分の1の量になったらそ の溶液もとる。最後にもう一度水200rを加えて沸騰させ、3分の1の量になったら、またその溶液をとる。このようにして得られた3回分の抽出液を混ぜ合 わせて薬浴に用いる。

 治療法:症状、加齢、体質によって1回の治療コースを通常14〜21日間とする。1日2〜3回入り、1回の時間は20〜90分間とする。最初と最後の入浴時間を多少短くして、中間の入浴時間をやや延ばすようにすると効果が上がる。

 温度:最低34〜35℃、最高36〜41℃。

3. 流水浴

 渓流や泉などで浴する方法で、加齢のため関節や筋肉、腱などが変形している症状には有効である。

罨法(あんぽう)

1. 熱罨法

 全身を湿布して発汗させる療法である。発汗させるには2つの方法がある。からだの中を温めて汗を体内から排出させる方法と、外部から温めて発汗さ せる方法である。前者は苣菜8味粉末剤のような発汗剤を服用する。これで発汗しない場合は、後者の治療法を用いる。後者の治療方法としては、よく煮沸した 発汗剤を大きな袋に入れるか、または患者の上にきれいな布をかぶせ、その上に発汗薬を均一に散らし、掛け布団を被せて汗を出させる。

 熱罨法は、ヘイ熱(高齢者や虚弱体質者などが急性の炎症にかかる場合によく現われる症候群)の遊走性疼痛に著効である。遊走性疼痛のあるヘイ病にはヘイを鎮静する。寒性病の場合に用いる場合は、バダガン、ヘイを排出する。

家畜の体毛、塩、麹、胡麻粕などを用いる発汗法もあるが、薬剤を用いた発汗法と併用する場合が多い。

 

2. 冷罨法

 コールド・コンプレスは、氷塊、泥石、煉瓦などで患部を冷やす治療法で、生薬と組み合わせて治療に用いる。

羊療法

 モンゴル人の間で幅広く利用されている羊の反芻胃内容物療法、羊の臓器や皮膚療法、接骨療法、脳震盪療法、燻蒸療法などは、ロシアでも人気があり、遠くからわざわざ治療を受けにやって来る人もたくさんいる。

1. 羊の反芻胃内容物療法

 畜殺したばかりの3〜4歳の羊の新鮮な反芻胃内容物を用いる療法である。病変部をそっくり反芻胃内容物と症状に応じて生薬、塩、酒のいずれかを混 ぜたものにしばらく漬けておいたり、病変部位に反芻胃の口をぴったりと当てて湿布する。生薬、塩、酒を加えるのは、反芻胃内容物の薬効を強化させるためで ある。

 そのほか、反芻胃内容物を燻蒸して皮膚粘膜から薬用成分を吸収させる方法や、また、反芻胃の口を閉じて患部に押し当てる方法もある。

 以上のような反芻胃内容物療法は、冷え症、関節炎、婦人科系疾患、接骨などに有効である。

 治療を受けようとする患者は、前もって医師の注意事項を守り、治療後風邪などをひかないようによく注意する。1回の治療時間は通常2〜5時間で、1回で効果がなければ、翌年にもう一回治療する。

2. 羊の肝臓などの臓器療法

 羊はモンゴル遊牧民の生活と切っても切れない関係がある。日常生活では食料の半分は羊肉あるいは干し羊肉で、また、病気の治療にも欠かせない薬物 となっている。反芻胃内容物治療と同じように、羊の肝臓などの臓器もさまざまな疾患に用いられている。それは必ずしも畜殺したものを治療に用いるばかりで なく、生きたままの羊を用いることもある。例えば、小児の腹痛を伴う下痢や脹りには羊を仰伏位にして四肢をしっかりと引っ張り、子どもの臍を羊の臍にぴっ たりと15分間ほど合わせる。子どもが酷く泣くときは10分間でもよい。治療後は、子どもの腹部や腰部を温める。その羊は再度の治療に備えて、必ず群に放 しておく。畜殺してはいけない。

3. 羊の皮膚療法

 まず羊を畜殺して、もとの形を崩さないように剥いだ皮に、下記の生薬を入れて煎じる。反芻胃内容物、白雲香(Liguidambar formosana Hance)、決明子、麻子(Abutilon theophrast: ned:c.)各15g、訶子、川楝子、山梔子湯剤各50g、喜馬拉雅紫茉莉(Mirabiis himalaica〈Edgew.〉Heim.)、藜、玉竹(Polygonatum odoratum〈Mill.〉Druce)多花黄精注(Polygonatum cyrtonema Hua)、天門冬(Asparagus cochinchinensis〈Lour.〉Merr.)各20g、婦人科疾患の場合は白豆7味粉末剤50gを、神経病の場合はウラン(大赤)13味湯 剤25〜35gそれぞれ加え、3rの水でよく煮沸する。これにバター100〜200g、焼酎50〜100pを加えてよくかき混ぜる。そしてそれらが入った 羊の皮の中に患者を座らせる。この際、患者の頭部に羊の脾臓を被せる。

 治療時間は通常2時間で、治療中には鎮静作用の著しい沈香35味粉末剤(原則として粉末剤は煎じて用いないが、沈香35味煎じ剤は例外である)を マトンスープと一緒に煎じて飲ませる。治療後は、風邪を引かないよう気をつけ、3週間は養生する(第4章モンゴル医薬学の治療より)。

 
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