会社概要問い合わせ特定商取引法上の表記個人情報の取り扱いについて  
 
バリ・ジャムゥ見聞記 ▼高橋澄子先生のこと
 

 高橋澄子先生が肺ガンで一九九六年六月十二日に東邦医大の大橋病院で亡くなられてから今年で八年になろうしとている。雨がこそ降るなか東京・落合の葬儀所で弔われ、なぜか「お骨」を一カ月近く自宅で保管する羽目になった。ご実家の宗派が神道ということもあり、神社の分御霊が祀ってあるような横長の祭壇に儀礼にのっとってお焼香?をすましてから、裏庭にある神道様式のお墓にお参りした。神道のお墓は長野県のそれ、あたまに屋根を被っているのとよく似ている。そこに先生は今も眠っている。ひんやりとした霊気が立ち昇っており、死後の生を迎えるには申し分ない住処だ。先生はどんな夢を織りなしているのだろう。実際、関東の奥地では今でも神道のお墓が数多く建っているとのことだ。 

 話を「お骨」にもどそう。多分、神道の儀礼のためだったと記憶している。曰く「死者はすぐには墓に容れてはならない、死んで何週間かは他所で待たせておく」とうかがったように憶えている。その間はきっと浄化の期間なのだろう。

◆「バリ・ジャムゥ」へ
 バリは観光化されおり、やっているのはスパのみで、伝統的なジャムウなどは微塵も見つけられないとの話がたくさん耳に入ってきたが、背中を押されるごとくングラ・ライ空港に降り立った。ともあれ、バリでのジャムゥを求めて来てしまったのだ。

  四輪駆動の窓からブーゲンビリアが雨で光っている。そうあの時、先生の遺骨を抱いて幡井先生らとソロ河に行ったときも雨期だった。河は泥色の口を大きく開け、濁流が渦巻いていた。遺骨は河べりの斎場の僧たちによって型どおりのお祈りののち、激流のただなかへと運ばれた。そして色鮮やかな、真っ赤と黄色のハイビスカスを一掴み、二掴みと激流に投げ込んで、散骨が終わった。

 デンパサール市場近くの細い路地裏を入って行くと、しもた屋風のジャムゥおばさんの家がある。もちろん看板は出てない。ジャムゥは朝市へ持って行って売っているらしい。いろんなウコンやらナツメグ、ラギやらが所狭しと、たらい一杯に入っている。三〇センチもあろうかという大きな金のおろし器でウコンをせっせとおろして搾っている。すぐさま写真に撮る。出来上がったばかりのホットなジャムゥを試飲する。

 「ピンピンなるよ」、と人差し指を出されて、みんなでどっと大笑い。さっそく、ジャムゥの作り方をあんちょこして、出来たてのジャムゥを土産にペットボトルに入れてもらう。 

 不妊相談もやっているそうだ。定期的に通ったら子宝が授かったという自慢話も聞かしてくれた。マッサージをしてくれたおばあさん、つまりおばさんのお母さんは神降ろしができるとのこと。彼女はバリアン、ドゥクンなのである。そういえば、マッサージの終わりになにやらぶつぶつ呪文を唱えながら股ぐらに思い切り足を突っ込まれた。伝統的な悪魔祓い?なんせバリではどこの家にでも大きな門があって、悪霊の侵入を防ぐため、入口は人一人がやっと通れる幅しかない。

▼ジャムウの特徴

ジャムゥの一番の特徴といえば、検者の医者がいない。つまり、医者抜きの医学であるところがおもしろい。イスラムの侵入によってドゥクンが忽然と消えた、という歴史のせいばかりではなさそうな気がする。

 医学とはそもそも医者がいて成り立つものと相場がきまっている。西洋医学はいうまでもなく、中医学もアーユルヴェーダもユナニももみんな男どもばかりで、医者が偉そうにしている。ところがジャムウは違う。女どもが口伝で伝えてきた薬を問診で調合し、患者さんに飲ませたり貼ったりするだけだ。もちろん、「体質論」とか「ドーシャ論」とか「傷寒論」のようなものはない。

 第二には女性のみが口伝してきた。よって、初潮から産前、妊娠、産後、閉経、に即応した処方がたくさんある。「ピリス」、「ダタン.ブラン」などはその代表的な生薬である(高橋澄子「インドネシアの伝承治療薬ジャムゥ」『アジアの伝統医学』収録。出帆新社)。

 第三にジャムゥは煎剤ではなく、生のドリンクである。生薬を破砕し、磨り潰すことによってエッセンスそのものを飲む。製薬会社の粉末剤、丸薬になったとたんカンファーが吹っ飛び、効用が半減するのは至極当然である。

▼ジャムゥの歴史

ジャムゥの歴史は 六-八世紀にかけてジャワ島にヒンドゥ教の伝播とともにアーユルヴェーダが伝わったのが始まりであるといわれている。その後十三〜十四世紀のモジョパヒット王朝期にその体系の完成を見、十六世紀に入って、イスラムの侵攻とともにドゥクンは『ウサダUsada・ロンタム』を書き録してジャワ島から忽然と姿を消した、というよりも消されたといった方が真相に近い。ボロブドゥール仏教寺院回廊の壁面彫刻にある「脈診とマッサージ」、「」ジャムウの調合法」の浮き彫りなどから歴史を垣間見ることができる。そして長い時が経ち、やがてオランダ植民地主義のくびきから解き放たれたインドネシアは、一九四八年にラデン・A・セノ・サストゥロアミジョヨオ((一八九三年-一九七四年)によって最初のインドネシア語によるジャムゥの書『Obat asli Indonesia』(インドネシア本来の薬)が著わされた(前掲書)。

▼ジャムゥの主要なジンジャーと生薬
ジャムゥの主要なジンジャーと生薬は、以下の通りである。

1.kencur(タンチョール/バンウコン )
保温 発汗(湿布、ペースト)解熱、胃痛、腹部の痛み、膨満感、筋肉痛、リウマチ、頭痛、潰瘍、喘息、高血圧、下痢、若返り。

2.jahe(ジャヘイ/トゥムゥ・ギリン)
下痢、便秘、腹痛、吐き気、消化促進(進胆汁への刺戟)、傷、咳、ヘビ毒の解毒剤、減量、妊娠後のケアー。 

3.kunir(ウコン)

高血圧、解熱、喘息、傷、殺菌 胃痛、下痢 血液循環の改善、潰瘍。 

4.kunyit(クーシュ/クスリウコン)
女性用のジャムゥによく使われる。強壮、利胆、下痢、便秘、解熱、筋肉痙攣 皮膚疾患、黄疸、肝臓病、膀胱病、血液循環。 


5.ナツメグ(ニクズク)
健胃、下痢、催眠作用、香辛料。

6.タマリン皮膚疾患、潰瘍、外用【葉】。 

7.古米(ラギ)
飽和作用。 

▼ジャムゥのレシピ
 次に以上の生薬を使ったジャムゥのレシピの基本を参考までに載せておく。細かい配合の仕方は、患者さんの症状によって当然異なってくるであろうし、また、口伝上の秘密もあるので差し控えたい。

○風邪 

*jahe トゥムゥ・ギリン 

*kencur バンウコン

*タマリンド

*古米 ラギ 

○女性用
*kunyit クスリウコン
*タマリンド
*塩

○男性用 

*ナツメグ 

*jahe トゥムゥ・ギリン
*kencur バンウコン
*古米 ラギ

製薬会社のジャムゥ
製薬会社のジャムゥには粉末剤が多い。男性用、女性用から腹痛、風邪、咳をはじめ、それぞれの症状に応じたさまざまな粉末剤が所狭しと陳列されている。普通、ジャムゥは飲みにくいので、マドゥ(蜂蜜)を入れて飲まれているが、筆者が訪れた店ではマドゥ(蜂蜜)だけでなく、ナツメグとワインと発酵させたラギも攪拌して入れて店頭で飲ませていた。蜂がジャムゥに何匹もたかっているのを客が手で払いながら飲んでいた。

*EM製品の優れもの-「ボカシ」
製造元の効能書きによれば、「ボカシ・ラブ・オイル」は207種のハーブとココナツオイルをEM(Effective Microorganisms)技術によって発酵させたジャムゥであり、外用、内用とも用いることができる、とのことだ。

外用では、捻挫、関節痛、筋肉痛、皮膚病、疥癬、おでき、リウマチ、たむし、なまず、火傷など、内用としては、心臓の痛み、腹痛、下痢、咳、発熱など、に効能がある、としている。
ジャムゥ店だけでなく、バサルのスーパーでも売られているのを見ると、根強い人気があるのだろう。

*「ボカシ」のマッサージ
「ボカシ」を使ったマッサージも行われている。基本的なテクニックとしてはアーユルヴェーダのアビヤンガと同じようである。また、土に「ボカシ」の葉っぱを混入しての「ボカシ」の砂風呂(温熱浴)もセットで組まれている。一度、体験されるといい。

*コインマッサージ(keTokan)
「悪い風masuk angin」を体内から放出し、血液循環を改善するコインマッサージ(keTokan)は、ジャワの伝統的なマッサージである。ジャムゥと同じように、これも女性のマッサージ師が行なうのが常である。
コインで頸、肩、背中、腹部などを斜めに強く引く。赤い太い跡筋が現われる。普通は痛くはないが、症状のある場合は、痛みが激しい。特に風邪、腹痛、胃腸障害などに著効がある。

※本稿は2004年3月のアーユルヴェーダ研究会東京例会で発表したものに加筆したものである。

 

 

ページtopへ
 
 

copyright 2007 shuppannshinsya all right reserved